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四度目の二月十三日、正午。
部室にいるのは亜季と淳司の二人。
二人共先程から一言も発していない。
一人でも欠けたら、策は実行に移せない。
出来る事には、出来る。
しかし、亜季が実行に踏み切れる勇気を得る事が出来ない。
祈るような気持ちで淳司は待っている。
時計の針の音が、死刑囚が踏み締める十三階段のようにかち、かち、と迫って来る。
窓は開けているが、風すらも二人の気配に怯えてか、避けていっているように思える。
(……頼む、来てくれ!)
がら。
小さく音が戸から聞こえると。
見知った黒い顔がそこにはあった。
しかし、そこに笑顔はなく、抜き身の真剣のような緊張感があった。
「ボクは、アキのサクに乗ってみようと思ウ」
その後ろから総司と翔子の姿が見えた。
「危険な賭けと言うのなら、今も危険な状態だからね」
「……亜季ちゃん、やってみよう」
三人の言葉に小さく、だが、力強く亜季は頷いた。
二月十三日の放課後。
「今日は珍しく五人揃っているんだね」
「……でよ、古典の池田の野朗がさ……」
翔子の独白を無視するかのように淳司はしかめっ面で、先程からずっと彼が池田先生から受けた特別課題の事について愚痴を言っている。
「……聞いてるのかよ?芝田?」
「うん。でも、それって……」
はっきり言うべきかどうか翔子が悩んでいると、
「そう言うのを自業自得、と言うのよ」
窓際にいた亜季が、本から視線を離さずに、見も蓋もなく、あっさりとそう告げる。彼女の短い髪が、涼しげに風に揺れている。
淳司は不服そうに、
「んなこと言ったってよ、人には向き不向きってものが……」
「あんたの場合、勉強全般が不向きな訳?」
んぐ、と淳司が唸ると、部室の扉付近で佇んでいたジャックと総司は顔に苦笑いを浮かべている。そして、もう一人、部屋の右隅で黒霧史記が苦笑を浮かべている。
「でも瀬川さんが言う事ももっともなんじゃないのかな、真島君?」
「黒さんまでんなこと言うし……俺、ぐれちまうぞ」
「勝手にぐれれば?」
「何事も努力せずに諦めるのはどうかと思うんだけどね」
う〜ん、と困ったように史記は人差し指を顎にあてている。
「そう思わない、翔子ちゃん?」
「は、は、は、ハイ?!」
いきなり話題を振られてしまった翔子は、音程をやや外して返事をしてしまった。
史記は翔子の方を微笑みながら見つめている。
「え、え〜と……その、すみません……話、よく、聞いてませんでした」
俯く。ただ、どことなくわざとらしい。
「でもそれって、ちょっと痛い所、突かれてますね」
総司の苦笑したような声。翔子が顔を上げてみると、彼はちょっと憂いを含んだような表情で史記を見ている。
「どういう意味、ソウジ?」
ジャックが椅子から体ごと総司に向け、己の疑問を解決すべく問い掛ける。
「皆はないのかな、なんかこう……幼い頃に諦めた夢とか、そういったものを」
「それと今の会話がどう繋がるんだよ?」
「つまり、幼い頃の夢を努力もせずに諦めた……それを言いたいの?」
淳司の問いに亜季が補足すると、総司はゆっくりと頷く。
「昔は、色々なりたいものがあったんだけどね……時間に追われているうちに一つ、また一つと僕は夢を諦めていったよ」
力無く彼がそう言うと、
「やれば良いじゃない。時間はあるものじゃなくて、見つけるものよ」
亜季は実に良いことを言う。しかし、
「……もっとも、それは私自身にも言えることだけどね」
本を見つめながら呟く声は小さい。だが、言葉の端々から弱々しさは感じられない。
「それ、ボクもそうネ。何か、このままここで、ミンナといつまでもイッショにいられればいいなぁ、と思う時、あるネ」
ジャックの眼もどこか遠くを見つめているように見える。
「……なんだよなんだよ!全員しんみりしやがって!」
こういう雰囲気が苦手な淳司は両手をやれやれと言ったようにあげた後に、威勢良く笑いながら大声を出す。
しかし、彼の態度から努めてそうしているのがわかってしまう。
「で、真島君はどうなのかな?」
「どうって……何を?」
史記の問いの意味がわからない淳司は怪訝な表情だ。
「時間がなくて、夢を諦めたりしたこと、もしくは、今、時間に追われているせいで、何かしら出来ない事、ない?」
真摯な彼女の問いに、真島君も真剣に考え出す。
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